【長編小説】月蝕の鼓動《第6話・協力者》

【長編小説】月蝕の鼓動《第6話・協力者》

 

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「それから、そのアユミって子はどうしたんすか」「うーん。どうしたんだっけな。それから見てねえからわかんねえな」
 須藤はそう言って首を二度三度捻った。

「そうっすか。なんか、おっかない話っすね」
 井沢はそう言って溜息を吐いた。

「大丈夫。俺もまだ一回しか遭遇してねえから」

「そうっすよね。そんなん、レアケースっすよね」
 井沢は怯えたような目で須藤を見つめた。

「そんな、ビビんなよ。おい、こっちだ」
 そう言って、須藤は地下へと続く階段を降りはじめた。井沢もその後に続く。どうやら、地下駐車場に着いたらしい。

 地下に降りると、アファベットが書かれた柱がところどころに配置されている。井沢たちのいるところにはCと書かれていた。

 そして、そこから対角線上に向かってしばらく歩いくと、Eというアルファベットの書かれた柱の所で、須藤が立ち止まった。そこには、黒色のカローラが止められていた。

「これだ。おい、乗れ」
 と須藤がそのカローラを指差して言った。

「須藤さん。その前に一服していいっすか」
 井沢はそう言ってタバコを咥えるジェスチャーをした。

「え、ここでか」

「そうっす」
 と井沢は答え、アークロイヤルを口に咥えた。

「バカ。後にしろよ」
 須藤は呆れたような顔をしている。

「すんません。我慢できないっす」

「しょうがねえな。てか、そのタバコなんだよ。見たことねえな」

「アークロイヤルって言います。葉巻用の余った葉っぱを紙巻にしたヤツっす」

「へぇー」
 須藤は物珍しそうな目で井沢を見た。

「吸ってみますか」
 井沢はそう言ってソフトパッケージから一本抜きとり、須藤に手渡した。

 須藤は受け取ったアークロイヤルを口に咥えた。

 その瞬間、井沢はしめたと思った。周囲に誰もいないことを確認する。そして、須藤の顎をめがけて右フックを放った。すると、須藤の咥えていたアークロイヤルが勢いよく吹き飛んで宙を舞った。須藤は左頬を押さえながら、口の中の血をペッペとコンクリートの地面に吐いている。そして、顔をクイッとあげ、井沢を睨んだ。

「なにすんだよ。てめえ」
 須藤は小さく叫んだ。井沢は構うことなく、ボディブローを須藤のみぞおちに叩き込んだ。須藤は、グゥエという呻き声をあげると、その場にうずくまってしまった。井沢はすかさず、USPコンパクトをジャケットの内ポケットから取り出し、銃口を須藤の後頭部にあてがった。そして、USPコンパクトのコントロールレバーを下げた。USPコンパクトは公安警察官に支給されている自動拳銃である。

「騒ぐんじゃねえ。騒いだら撃つぞ」
 井沢が低い声で凄むと須藤はゆっくりと頷いた。

「手を頭の後ろに組め」
 須藤は言われた通りにした。

「よし、立て」
 井沢が命じると、須藤は後頭部に手を組んだ状態でスルリと立ち上がった。須藤の顔は恐怖で引きつっていた。

「乗れ」

「どこにっすか」

「運転席だよ。早くしろ」
 そう言って井沢は須藤の尻を蹴った。
 須藤が運転席に乗り込むのを見届けた後、井沢も後部座席の右側に乗りこんだ。

 須藤がエンジンをかけると、カローラからブルルンと唸るような音がした。

「なんで、こんなことするんですか」
 須藤の声は涙で震えている。井沢はかまわず銃口を後頭部に押し付けた。

「調査だよ」
 と井沢は答えた。

「調査っすか」

「そうだ。クライアントの女が行方不明になっちまったらしい。それで、調べてたら、ドリームエンジェルズが関わっていることがわかったんだ」

「それって、アユミちゃんっすか」

「知らねえよ。だからこうして、調べてんだよ」
 井沢は大声で怒鳴り、運転席を蹴った。

「すんません。ごめんなさい」

「わかりゃいいんだよ」

「あの、それよりハヅキちゃんに電話しないと。そろそろ、時間なんです」
 須藤はそう言ってペコペコと頭をさげた。

「うるせえ。おまえがしろ」
 井沢はスマートフォンを取りだし、ハヅキにリダイヤルして渡した。

 須藤は受け取るとスマートフォンを耳に当てた。

「もしもし、ドリームエンジェルの須藤です」
 ハヅキが電話に出たようだ。

「そうです。それで、どこに向かえばいいですか」
 須藤はそう言ってカーナビを操作した。

「はい。わかりました。今から向かいます」
 須藤は電話を切ると後部座席に振り返り、スマートフォンを井沢に返した。

「三茶にある喫茶店で待ってるらしいです」

「じゃあ、早く行け」

「あの。その前にソレ、しまってもらってもいいですか」
 須藤はそう言ってUSPコンパクトを指差した。

「おまえが俺に協力してくれんならな」

「俺にできることがあれば、なんでもします。俺もアユミちゃんがどうなったか知りたいです」
 須藤は深く頭をさげた。

「わかった」
 井沢はそう言うと、コントロールレバーをあげ、USPコンパクトをジャケットの内ポケットにしまった。

「ありがとうございます。でも、佐藤さんって何者なんすか。ソレ、本物ですよね」

「PSOの警備員だ」
 と井沢は答えた。

 PSO(プライベート セキュリティ オフィス)とは青山に事務所を構える民間警備会社のことだ。だが、警備会社とは表向きの顔で、裏では警察以上の武力を持ち、様々な工作活動を行っている会社だ。会社の持ち主は、大手人材派遣会社の会長、中森新蔵なかもりしんぞうである。

 井沢はそこの警備員を装うことにした。

「なんすか、それ」

「軍事力のある探偵事務所みてえなもんだ」

「へぇー。凄いっすね」

「もう、いいだろ。わかったら車を出せ」
 井沢がそう言うと、カローラがブーンという音を立てて、ゆっくりと動きだした。

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